レビュー：腸内マイクロバイオームの生物地理学　Nature Reviews Microbiology

The gut microbiota and its biogeographyCitationNature Reviews Microbiology, vol. 22, pp. 105–118 (2023)論文の要約本レビューでは、腸管内の微生物群集が空間的多様性を示す「生物地理学的構造」に焦点を当て、最近の高解像度解析技術によって明らかとなった腸内コミュニティの空間分布とその機能的重要性を整理している。従来の全腸管を対象としたアプローチとは異なり、単一細胞解析や空間メタゲノミクス、ライブイメージングなどを用いることで、利殖層や粘液層への特異的な菌集積、細菌間の近傍配置と機能的相互関係が明らかにされつつある。たとえば、粘液層に限定された微生物群はバリア機能や免疫調節に直接関与していることが示されつつあり、また腸管の部位（上・下部）によって菌種構成や代謝パターンが細かく異なることも示されている。この生物地理学的多様性は、腸管の生理機能や代謝的役割、さらには炎症反応や感染防御に深く関与している可能性がある。これらの知見は、病変部位における菌叢異常と疾患（炎症性腸疾患や大腸癌など）の関連を理解するうえで不可欠である。本レビューは、腸内微生物コミュニティを「空間」の観点から解析する新たなパラダイムを提示しており、感染症、消化器疾患、微生物生態学、個別化診療への応用を模索する研究者にとって重要な示唆を与える内容である。

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