レビュー：マラリア最前線　巧妙な敵と終わらない追いかけっこ〜進化する脅威と希望の光〜　NEJM

MalariaCitationNew England Journal of Medicine, 2025; 392(13): 1320–1333概要本総説は、マラリアの世界的な現状と課題、診断・治療・予防戦略の最新動向を包括的に解説している。2023年には世界で約2億6,300万例、59万7,000人の死亡が推定され、Plasmodium falciparum が全症例の97％を占め、特にサハラ以南アフリカでの負担が大きい。P. vivax は南米・南アジア・東南アジア・西太平洋地域で多く、再発の原因となる休眠肝内期（hypnozoite）を有する。診断標準はギムザ染色血液塗抹の顕微鏡検査で、種の同定と寄生虫密度測定が可能。迅速診断検査（RDT）も広く用いられるが、P. falciparum のHRP2遺伝子欠失による偽陰性や種判別の限界が課題。PCRは高感度だが臨床診断には主に利用されない。治療軽症のP. falciparum 感染はアルテミシニン併用療法（ACT）が標準。重症例は静注アルテスネートが第一選択で、寄生虫陰性化後に経口療法を完遂する。P. vivax や P. ovale に対しては再発予防にプリマキンまたはタフェノキンを併用するが、G6PD欠損症では投与制限がある。ACTや併用薬に対する耐性は東南アジアに加え東アフリカ諸国にも拡大している。予防流行地在住者には殺虫剤処理蚊帳や室内残留噴霧が推奨されるが、殺虫剤耐性や蚊の行動変化が問題。旅行者には行き先の耐性状況に応じてアトバコン–プログアニル、ドキシサイクリン、メフロキン、プリマキン、タフェノキンなどの化学予防を選択する。近年、RTS,S/AS01やR21/Matrix-Mなどのワクチンが承認され、季節的化学予防との併用で有効性が向上することが示されている。また、単回投与型抗体製剤の開発も進行中である。結論診断技術、薬剤、ワクチンの進歩にもかかわらず、マラリアは依然として世界的な公衆衛生上の重大課題である。持続的な対策資源投入と耐性・媒介蚊の動態監視が、制圧および将来的な根絶の鍵となる。

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