ロンドン患者の奇跡：HIV「治癒」は本当に可能か？　Lancet HIV

Evidence for HIV-1 cure after CCR5Δ32/Δ32 allogeneic haemopoietic stem-cell transplantation 30 months post analytical treatment interruption: a case reportCitationLancet HIV, 2020; 7(5): e340–e347論文の要約本報告は、HIV-1感染とホジキンリンパ腫を併発した「ロンドン患者」が、CCR5Δ32/Δ32ドナーからの同種造血幹細胞移植（allo-HSCT）を受け、抗レトロウイルス療法（ART）中止後30か月間、血液・中枢神経系・腸管・リンパ組織において複製能を有するHIVが検出されなかった経過を詳細に示したものである。背景　CCR5受容体を欠くドナー細胞による移植は、HIVが利用できる標的細胞を根本的に減らす戦略であり、ベルリン患者に続き2例目の長期寛解例となる可能性があった。主要所見超高感度検査で、血漿・精液・髄液すべてでHIV-1 RNAは検出限界未満（<1コピー/mL）。腸管組織検体および大部分のリンパ節検体でもHIV-1 DNA陰性。腋窩リンパ節の一部でごく低レベルのenv・LTRシグナルを検出するも、複製能をもつ完全なプロウイルスは確認されず。HIV特異的CD4/CD8 T細胞応答は消失し、抗Env抗体価は徐々に低下。数理モデルにより、末梢T細胞のドナーキメリズムが80%以上であれば生涯寛解の確率は98%以上と推定。臨床的意義　本症例は、1回のCCR5Δ32/Δ32 allo-HSCT、全身放射線照射なしでも、長期HIV寛解（機能的治癒）が可能であることを示す重要なエビデンスである。ただし、残存する「化石化」HIV DNAや標的細胞キメリズムの不均一性など、完全治癒の判定や普遍的応用には課題が残る。

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