症例報告：HIV事実上の治癒か？CCR5遺伝子変異と造血幹細胞移植が拓く未来の扉　Nature Medicine

In-depth virological and immunological characterization of HIV-1 cure after CCR5Δ32/Δ32 allogeneic hematopoietic stem cell transplantationCitationNat Med. 2023 Mar;29(3):583–587. doi:10.1038/s41591-023-02213-x概要本研究は、CCR5Δ32/Δ32変異を有する同種造血幹細胞移植（HSCT）によってHIV-1が治癒した症例（通称「デュッセルドルフ患者」）の詳細なウイルス学的・免疫学的解析を報告している。対象は急性骨髄性白血病を合併した53歳男性で、2013年にHSCTを受け、その後9年以上にわたり厳密にモニタリングされた。ウイルス学的評価では、末梢血単核球やリンパ節・消化管組織で痕跡程度のHIV-1 DNAが検出されることはあったが、定量的ウイルスアウトグロースアッセイやヒト化マウスを用いたin vivo検証では複製可能なウイルスは確認されなかった。抗レトロウイルス療法中断（ATI）後も48か月間にわたりウイルスリバウンドはなく、血漿中HIV RNAは一貫して検出限界未満であった。免疫学的解析では、CCR5発現の欠如に加えて、HIV特異的T細胞応答や抗体応答は時間の経過とともに消失傾向を示し、持続的な抗原刺激の不在が示唆された。一方で、サイトメガロウイルス（CMV）に対するT細胞応答は維持されており、免疫応答の低下がHIVに特異的であることが確認された。著者らは、CCR5Δ32/Δ32 HSCTによる「レザーバーの劇的減少」と「CCR5陽性標的細胞の欠如」、さらに「移植片対HIV効果（graft-versus-HIV effect）」の相乗作用が治癒に寄与したと結論づけている。これにより、本例は「ベルリン患者」「ロンドン患者」に続く3例目のHIV治癒例として確立され、HIV治癒戦略の新たな基盤となると位置づけられた。

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