症例報告：ボルナウイルスVSBV-1　愛するエキゾチックペットが招いた致死性脳炎の謎を追う　NEJM

A Variegated Squirrel Bornavirus Associated with Fatal Human EncephalitisCitationN Engl J Med. 2015 Jul 9;373(2):154–162. doi:10.1056/NEJMoa1415627概要本研究は、ドイツ・ザクセン＝アンハルト州において2011〜2013年に発生した3例の致死性脳炎を解析し、新規ボルナウイルス「Variegated Squirrel 1 Bornavirus（VSBV-1）」を同定した報告である。臨床経過患者は63歳、62歳、72歳の男性で、いずれも変色リス（Sciurus variegatoides）の飼育者であり、互いに交流・繁殖ペアの交換をしていた。発症から2〜4か月で全例が死亡した。症状は発熱、悪寒、精神運動緩慢、混乱、歩行失調、ミオクローヌス、眼球運動障害を伴い、最終的に昏睡に至った。画像検査では大脳皮質・基底核の浮腫性病変や髄膜造影効果がみられ、髄液は細胞数増加を示した。全例に下肢深部静脈血栓症が出現し、2例で肺塞栓を併発した。病原体同定当初の検査では既知病原体は同定されなかったが、接触リスのサンプルをメタゲノム解析したところ、哺乳類ボルナウイルスに近縁だが異なる配列が検出された。患者脳組織、髄液、血清からも同様の配列が確認され、全ゲノム解析によりVSBV-1と命名された。系統解析では哺乳類ボルナウイルスと近縁であるが独立系統を形成し、新種として分類された。病理・免疫学的解析患者脳およびリス脳では、ボルナウイルス特異抗体による免疫染色でニューロン・グリアに陽性シグナルがみられた（p.7, Fig.3）。また、患者血清・髄液からは高力価のボルナウイルス特異IgGが検出された。考察VSBV-1はリスからヒトに伝播した新規人獣共通感染症であり、輸入・飼育されるエキゾチック齧歯類が未知のウイルスを保持し得ることを示した。感染経路は咬傷や掻傷が想定されるが確定はされていない。患者はいずれも高齢かつ基礎疾患を有しており、発症に影響した可能性がある。著者らは、原因不明の脳炎例においてVSBV-1のような未知ウイルス感染を念頭に置く必要があると結論した。

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