症例報告：【絶望を覆す】遺伝子改良ファージが拓く難治性感染症治療の夜明け～世界初！個別化医療の最前線～　Nature Medicine

Engineered bacteriophages for treatment of a patient with a disseminated drug-resistant Mycobacterium abscessus infectionCitationNat Med. 2019 May;25(5):730–733. doi:10.1038/s41591-019-0437-z概要本報告は、囊胞性線維症（cystic fibrosis, CF）に合併した多剤耐性 Mycobacterium abscessus 感染症に対し、遺伝子改変を含むバクテリオファージ治療を実施し、臨床的改善を得た世界初の症例を示したものである。対象は15歳女性、ΔF508ホモ接合型のCF患者で、慢性 M. abscessus subsp. massiliense 感染を有し、両肺移植を受けた後に播種性感染を発症した。従来の抗菌薬は副作用や耐性のため無効であり、皮膚結節や胸骨感染、肝門部病変を認めた。研究者らは10,000株以上のファージライブラリーから候補をスクリーニングし、さらに遺伝子工学的改変により溶菌性を高めた3種類のファージ（Muddy、ZoeJΔ45、BPsΔ33HTH-HRM10）を選定した。これらを組み合わせたファージカクテルを静脈内投与し、局所病変には外用も併用した。治療は少なくとも32週間継続され、副作用は認められなかった。治療経過では、胸骨創部の閉鎖、肝機能改善、皮膚結節の縮小、体重増加が得られた。PET-CTでは肝門部リンパ節病変が消退し、M. abscessus は血液や喀痰からは検出されなくなった。血清中にファージが検出され、in vivoでの複製が示唆された。また、治療中に分離された菌株は依然としてファージ感受性を保持していた。本症例は、ヒトにおける抗酸菌感染症へのファージ治療、特に遺伝子改変ファージを用いた世界初の臨床応用例であり、耐性菌感染症治療の新たな可能性を示す画期的な報告である。

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