症例報告：致死率100%の狂犬病から生還！奇跡を呼んだ「ミルウォーキー・プロトコル」と医学の光と影　NEJM

Survival after Treatment of Rabies with Induction of ComaCitationN Engl J Med. 2005 Jun 16;352(24):2508–2514. doi:10.1056/NEJMoa050382概要本論文は、臨床的に発症したヒト狂犬病に対して治療的昏睡を誘導する戦略を行い、生存を得た最初の報告である。症例は米国在住の15歳女性で、コウモリに咬まれた1か月後に倦怠感や複視で発症し、徐々に神経症状を進行させた。発症時にはすでに免疫応答が確認されており、ワクチンや免疫グロブリンは投与されなかった。治療は集中治療下で、ケタミンおよびミダゾラムを用いた昏睡導入と脳波バースト抑制を中心とし、アマンタジンおよびリバビリンが併用された。加えて輸液管理、人工呼吸、酸素供給最適化、凝固管理が行われた。治療経過では溶血、膵炎、アシドーシス、肝障害といった薬剤関連有害事象が認められたが、感染性合併症は回避された。第8病日には髄液中に狂犬病ウイルス特異抗体が上昇し、昏睡は漸減された。その後、運動麻痺や感覚障害は改善し、31日目に隔離解除、76日目に退院した。退院後5か月の時点で、患者は覚醒し意思疎通可能であったが、舞踏病様運動、構音障害、不安定な歩行が残存した。著者らは、本例の生存は限定的なウイルス曝露、早期診断、積極的な昏睡療法と免疫応答の成立により可能になったと考察している。結論として、この症例は狂犬病が必ずしも致死的でないことを示した画期的報告であり、いわゆる「ミルウォーキー・プロトコール」の端緒となった。

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